緊縛夜話第十五夜に寄せて
緊縛夜話第十五夜『盲獣ーあなたの世間に唾を吐くー』
舞台に寄せて / 演出 高木尋士
見ることと見えること
有末さんと膝を付き合わせじっくりと語り合った、そんな夜はない。
有末さんに悩みや感情をぶつけたこともない。有末さんの生い立ちも生活も知らない。何にも知らない。
気が合う、というのだろうか。もちろん、ぼくの一方的な片思いかもしれない。
不思議な感覚だが、人生にはそんな方がいらっしゃる、としか言いようがない。
そんな方と出会った、としか言いようがない。
言葉を職とする者として、そこのところをきちんと書き伝えるべきだろうがそれができないところが、言葉のプロフェッショナルではないのだ、ぼくは。という感覚において、有末さんと気が合うのだろうか、と分析してみた。果たしてどうか。
そんな有末さんと舞台を創ることになったのも不思議なものだ。
何年前か覚えてはいないが、初めて有末さんとお会いした時に、『江戸川乱歩・盲獣』という素材は決めた。
あのサングラスの奥から見ている何も見ていない有末さんの姿。
ぼくは、それを美しいと感じた。それこそが美であり職であると。
見えているものは見ない有末さん。見るものは見えない有末さん。
その「有末グラス」の秘密に気付いた時、この舞台は、一瞬で具体化した。
ぼくの演出プランを面白がってくれることには自信があった。
なぜなら、気が合うからだ。それ以外に理由は、ない。
先日、母が一人住む実家に帰省した。その夢に有末さんが出てきた。
もちろん、前後のある話なのだが、かいつまんで。その夢で有末さんは、ぼくに言った。
「縄が見えているうちは素人ですよ」ぼくは、答えた。「大丈夫ですよ、有末さん。ぼくに縄は見えません」「じゃあ、何が見えますか?」「あなたです。そして、女の肌に残された縄の痕です」
すると有末さんは、「有末グラス」の奥からピタリとぼくに照準し、こう言った。「縄の痕ですか。玄人だが・・・」
「・・・」が思い出せない。ここ数日、その「・・・」に悩まされている。
日本海の強風が情け容赦なく吹き付ける実家の寝室で、有末さんはぼくに何を語ったのだろうか。
それも、この作品『盲獣』で明らかになるだろう。
以上、演出高木さんよりお言葉を頂きました。
ありがとうございます!
見えるものと見えないもの。
有末剛の興味深い見解が述べられたこちらの記事も是非ご覧ください。
今回の舞台で何が現れるのか。そのヒントがあります。
有末剛というひとを中心に、これからも様々な物語が生まれる。
そんな気がします。